第1章 ポジティブ心理学を知ろう
ポジティブな感情とネガティヴな感情は共に生きる為に必要な要件である。ネガティヴ感情は、危機に対応する為に人間に備わっている能力で、攻めの際の敵に対する怒りの感情や飢餓に対しての不安に備える際に必要な感情である。ポジティブ感情とネガティヴ感情は比率として3:1が適切な比率であると述べている。ポジティブ心理学は「幸せの研究」として位置付けている。幸せとは短期的な意味での幸せだけでなく、長期的な意味での幸せも考える必要があり、well-beingという言葉が適していると思われる。このポジティブ心理学の重要な構成要素として「リジリエンス(回復力)」「フロー」「マインドフルネス」が挙げられる。
リジリエンスとは、トラウマ等に陥る心のダメージに対する回復力を意味する。この回復力の差が心の病である鬱から回復できるか?どうか?を意味する。この場合、思考の柔軟性が必要で、一喜一憂しない精神的安定性が回復力に大きく影響する。自分を過小評価しない自尊感情、自己効力感、楽観性も大きく影響するのである。
次のキーワードはフローである。フローな状態とは何かに没頭して時を忘れる様な状態を言う。大変難しい課題に対応していて、自分を忘れて没頭している状態である。これは問題が簡単過ぎても、難し過ぎても不敵である。自分の能力の少しだけ上の問題に対してチャレンジしている際に起こりやすい現象であり大変幸福度の高い状態である。
最後にマインドフルネスであるが、元々は仏教の教えてから発した東洋文化であるが、アメリカ西海岸でビックテックによって昨今大きく発展している。瞑想状態に自分を導き、頭に浮かぶ色々な過去の嫌な出来事、これから来るであろう不安な出来事等を頭に思い浮かべのではなく今目の前の現象のみに集中する、例えば、自分の呼吸、空の青さ等々である。この様な精神活動により心の中のストレスが緩和され徐々に人間の本来持つ自然な心の状態に復帰する事で元気を取り戻していく。
この一連の考えがポジティブ心理学である。脳科学的アプローチとして、ホルモンの知識も重要である。安らぎに関与するセロトニン、ストレスを緩和するオキシトシン、モチベーションに大きく影響するドーパミンの役割を知る事は幸福の研究には欠かす事ができない。また幸せになるには楽観的である事は非常に重要である。ポジティブ感情と通じる点があると思う。友達の人数も幸福度に大きな影響を持つ。1つの組織のみでの友達に偏るのはあまり良い事ではない。幅広く友達を作る様にする事は良い事である。均質な組織のみで生活すると、どうしても他人と自分を比較してしまう可能性が高い為である。
第2章 幸せのための条件とは?
ポジティブ心理学の中には2種類の学問があり1つは実証心理学、もう1つは臨床心理学である。実証心理学は基礎研究であり、臨床心理学は、実際に人を幸せにする活動である。実証心理学には、エドディナーとダニエルカールマンが顕著である。臨床心理学ではマーティンセグリマンとイローナボニウェルが有名である。
1️⃣マーティンセグリマンは「ポジティブ心理学の父」と呼ばれ、学習性無力感という現象を明らかにした。これは、長い間、強いストレス下にあった場合、もうダメだと思いガチで将来への夢、希望が持てず無気力になってしまう現象である。いじめや会社での嫌な事が長く続くと誰でもこの様な現象に至ると示したのである。セグリマンは著者「ポジティブ心理学の挑戦」の中で、幸せの5つの条件であるPERMAを提唱している。
Positive Emotion 前向きな感情
Engagement 何かに集中、没頭している状態
Relationship: 周りの人と本質的に繋がっている事が幸せに関与する
Meaning 人生の意味。自分は何の為に生きているのか?
Achievement 何かを達成した人は幸せである
2️⃣イローナボニウェルはポジティブ心理学の研究者、実践者です。レジリエンス(回復力)を高めるプログラムを考案した。ストレスを感じても直ぐに立ち直る人と立ち直れない人の差がレジリエンスの差である。SPARKレジリエンスプログラムである。
Situation 何が起こったのか?を正確に把握する事
Perception 起こった出来事を感情を入れずに受け入れる解釈する事
Auto pilot この解釈で自分の中にどの様な感謝が生じるか?を把握する事
Reaction 自分はどの様に捉えるかをパタンに分類する
批判オウム 他人を批判してあいまいな状態を嫌い白黒付ける
正義オウム 自分を曲げず「○○すべき」という思想を持つ負オウム
比べられる事自体を恐れ人前に出る事にも臆する
あきらめオウム 「自分にはできない」と決めつける
心配オウム 悲観的て全てうまく行かなくなると心配する
誤りオウム 自らを責め自己評価や自尊心を下げる
無関心オウム 面倒な事を避けようとする為、自分と周囲の意欲を喪失させる
この7つのどれに自分が当てはまるか?を自己判断しておく事
K:knowledge 自分は何を学んだのか?を理解する事
このサイクルを繰り返す事で、思考の柔軟性を高める。
レジリエンス(回復力)を高める方法:4つのレジリエンスマッスル
I can 私はできる
過去に自分が経験した困難な状況を思い出しどの様に乗り越えたのかを思い出し自分の高い能力を再認識して自己効力感を高める
I have 私には友人、知人がいる
過去にお世話になった人の名前を書き出し自分をサポートしてくれる人はこんなにいるんだと自信を持つ事
I like 私は○○が好きだ
自分の大切な人や楽しかった思い出の写真を見返してポジティブな気持ちになる
I am 私は○○である
自分の強みを考え自分らしさを実感する事
3️⃣エドディーナー
幸福学の創始者である。幸福度の測定方法を作り出し、幸福度と寿命の関係を定量化した。また、鬱•長期の不安感と悲観性は寿命が短いと言う事もわかった。
4⃣ダニエルカールマン
経済と幸せの関係を研究し、ある一定以上の収入、資産は幸福度への影響は小さくなるの明らかにした。
第3章 いいストレスは幸せにつながる
ポジティブ心理学の目的は、「幸せになる事」である。幸せな状態とは、ストレスや不安や悩みがなく前向きでレジリエンスが高く、人とつながりがある事である。ストレスにはいいストレスと悪いストレスがある。いいストレスは自分を高めようと思っている時のストレスである。悪いストレスは、身近な人の死や会社の倒産や病気怪我などの刺激から生じる。ストレスに対応する方策として、「ストレスコーピング」がある。環境を変えるのは難しいが、視点を変えるのは容易である。物の味方を変える事で気持ちが楽になる事は往々にあるので視点を変える事は有効である。しかし、自分が本当に腹落ちしないと逆にストレスが残る場合があるので、注意が必要である。また、気晴らしも重要で、あらかじめ自分がわくわくする様なアイテムをリストにしておき強いストレスを感じた時はそのリストを見る様にしておく事は有効である。中程度のストレスの人は、夢や目標を持つ事自体が幸せである。また、幸せは人から人へ伝搬する性質がある事も知っておく価値がある。辛い経験があった時、レジリエンスが高いと復帰が早い。以前の場所よりも一段高くなる可能性もある。心的外傷後成長という。引退後の成功したスポーツ選手にも当てはまる人がいる。幸せな人は長寿である。また、自己中心的な人は幸せにはなれない。利他的である事は幸せになる為に重要のポジションである。
第4章 日本人の為のポジティブ心理学(幸せの4つの因子)
幸福度を定量化して科学的に分析を行った結果、日本人では以下の4つの因子が幸福度に大きく影響している事がわかった。
第1因子:「やってみよう」(自己実現と成長の因子)
第2因子:「ありがとう」因子「つながりと感謝の因子)
第3因子:「なんとかなる」(前向きと楽観の因子」
第4因子「ありのままに」(独立とあなたらしさの因子)
分析の前提として地位財の様な短期の幸せによる様な要因や環境等の自分ではコントロールできない要因は除外した。29項目にそれぞれ3つの質問を出し合計87個の質問をする事でアンケートととした。
第1因子である「やってみよう」因子は自分は有能である、私は社会の要請に応えている、私のこれまでの人生は変化、学習、成長に満ちていた、今の自分は「本当になりたかった自分」であると言う内容である。大きな目標を持ちその目標と自分が一致している事、そしてそれに向かって成長しようとしている状態を示している。
第2因子である「ありがとう」因子は、人の喜ぶ顔がみたい、私を大切に思ってくれる人がいる、人生において感謝する事ごたくさんある、他者に親切手助けをしたいと言う内容である。周りとの安定した関係を目指す因子である。
第3因子「なんとかなる」は、物事が思い通りにいく、失敗や不安が引きずらない、他者との近しい関係を維持できる、人生で多くの事を達成してきた、と言う内容である。楽観的て前向きな姿勢をキープしている状態です。
第4因子「ありのままに」は、他人と比較しない、外的な原因で自分が何かできない訳ではない、自分の信念はしっかりしている、テレビのチャンネルを頻繁に変えない等の内容である。他人との比較ではなく自分らしさをしっかりと持ち、地位財に囚われない自分を維持すると言う内容である。
これらの因子を基に、1500人のアンケートを集結した結果、5つのグループに分けた。
①4つの因子全て高かった幸せグループと自己実現とつながりと感謝が強く、前向きと楽観、独立とあなたらしさが悪かった②やや幸せなグループ、全てが平均的な③平均グループ、前向きと楽観、独立とあなたらしさが高く、自己実現と成長、つながりと感謝が低かった④やや不幸せグループ、全てが悪かった⑤不幸せグループの5つに分類する事ができた。幸せを感じるのは、因子1と2の影響が大きい。
マサチューセッツ工科大のダニエルキム教授は「組織の成功循環モデル」にて組織のアウトプットを高めるには「関係の質」を高める事が効果的であると述べている。よい人間関係を構築してチームとしての信頼関係が構築されている場合、思考の質を上昇させ、行動の質が連鎖して、最後に結果の質が伴い、好循環が形成されると主張されている。幸せの4つの因子と大変深い関係がある。
幸福度向上の方策の1つとして、ほとほどで満足する事である。次は、その場を満足する事、何気ない事にも感謝する事、利他的である事、弱いけれど多様なつながりであり多くの人とつながる事、過干渉にならず無関心にもならない適度な距離感が大切な事、縦割りの組織での組織の壁が存在し疎外感を感じ幸福度が低い事、自分の良い点悪い点全て含めて自分が好きな事、他人の目を気にしない事、最適を追求しない事、等が述べられている。男性は金、出世等の地位財に心奪われる事が多く、女性の方が幸せであると述べている。未婚よりも既婚、子供は3人がベストとも調査結果は出ている。
第5章 実践の為のハッピーエクササイズ
第1章から第4章で判明した内容である幸せに至る4つの因子を用いてハッピーになるエクササイズを説明している。今日あった「3つのよかった事」を書くことがでポジティブになる事ができる。特に夜寝る際に実施すると効果的である。4つの因子に対してエクササイズを試みる。第1因子「やってみよう」は、夢や目標を書き出す事である。自分の強みを再確認でき自分の原点を明確にする事ができる。第2因子である「ありがとう」に対しては、感謝の気持ちを直接相手に伝え事である。また、「感謝を3つ」書く事も効果的である。何気ない事へも感謝すれば、対象は無限である。例:今日も心臓が動いてくれてありがとう。このカップのお陰で美味しいコーヒーが今日も飲める。マインドフルネスで脳に感謝。耳、目、鼻、口、心臓、胃腸、肝臓、足、全てに対して感謝する事で自分の幸福度を向上させる。慈悲の瞑想として、自分の悩みが無くなります様にと祈り、次に大切な家族の為に祈り、友人の為に祈り、最期は生きとし生きるものへ夢や願いが、叶う様に祈る。こうすれば優しく幸せな気持ちになれる。これらのエクササイズは、毎回本気で実施する事が大切である。1日3分は集中して祈る様にする事。また、その他の工夫として、寝る前にする事、ネガティヴを書き出しポジティブになる様に変換した物を用意する、箸等を使って無理矢理笑わせる、下ばかり見ているとネガティヴになるので上を向いて歩く、グループで実施する、夫婦で実施する、家族で実施する等の工夫を入れると更に効果的である。
第6章 ポジティブ心理学をどう社会に生かしていくか?
「幸せの4つの因子」を向上させる様な施策を考慮した政策を施す事で社会をよりよくできる、これが最終章である本章のポイントである。慶應大学が実施している「芝の家」、「吉野工房ちみち」がその一例である。やりたかった事を自分自身か再発見する事での「自己実現と成長」、自分の想いを共有してくれるスタッフや仲間、関係者との交流を通じた「つながりと感謝」、自分の持つ能力を発揮して場を得た「前向きと楽観」、誰の目を気にする訳でもない「自分らしさ」、これら4つの幸せ因子を深く考えた上での組織運営が行きやすい社会の実現の第一歩となる。
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