第1章 ウェルビーイング(幸福)とは
ギャラップ社のGallup World Pollや、OCEDによるBetter Life Index と呼ばれる指標群で幸福度が定量化されている。住居、所得と富、雇用や仕事の質、環境の質、仕事と生活のバランス、社会とのつながり、知識と技能、健康状態、市民参加、安全、主観的幸福の11項目で調査されている。OECD加盟国36ケ国の平均と比較して日本は顕著にスコアが悪いのは、「仕事と生活のバランス」「健康状態」「市民参加」「主観的幸福」である。
ノーベル経済学賞を受賞しているダニエルカーネルマンは、インタビューで幸福度を上げる為には、「時間の使い方を変える事」「人生をより良くする為に、もっと意識する事」「注意を意識的に向ける必要がある様な活動に時間を使う事」を挙げた。特に、「人とのつながり」にもっと時間を使う事を挙げている。パートナー、家族、親族、友人との良い関係を維持する為の時間をかける事の意義を解いた。また、ペットや植物への関心も幸福度への影響がある。物に対しても、愛着を持って長く使う事が大切であると言う。経済的発展と幸福度との関係であるが、発展途上国の一万ドル以下の収入では、極度の貧困、衛生状態が悪い、内戦がある等の状態では主観的幸福度は低いが、収入が一万ドルを超えるとほぼ横這いで経済的な発展と幸福度は比例していない。日本だけによらず、世界的に言える内容である。これは、収入は正の相関があるが、労働時間、環境問題などは負の相関でありこれがバランスをとり横這いになっていると予想される。特に長時間労働の影響は大きいと推定され健康への影響、仕事と生活のバランス、育児への影響等が挙げられる。加えて、経済的発展は人間関係の希薄化を導いたとの指摘もある。人とのつながりが日本だけでなくアメリカでも進んでいると言われる。フィンランドと日本の幸福度に関しての差分を解析している。第1は「人とのつながり」である。家族、親族、友人等とのつながりに差が生じている。また、「仕事と生活のバランス」も大きく差分が出ている。夏休みの期間、別荘での過ごし方、等に差がある。余暇の過ごし方でも、自宅で4時間近くをフィンランドの人は家族、趣味を楽しむのに対し、日本人は2.5時間程度となっており日々の差分としては大きな差がある。自然とのふれあいに関しても大きな差がある。同時に環境破壊に対する姿勢にも差がある。自然を守る事の大切さを強くフィンランドの人は思っている。
第2章 日本の幸福度
30万人のアンケートを実施した結果、とても幸せからとても不幸せを10段階に分け記入してもらった結果、平均は6.27となった。男女の比較では、幸福であると選択した7,8,9,10のゾーンでは女性が多かった。一方、不幸であると選択した0,1,2,3と回答した人は男性の方が多かった。この結果では女性の方が男性よりも幸せであると言える。これは、専業主婦の幸福度が高い事が、影響している。年齢別では、幸福度は60歳以上では高く30歳位にピークを持っている。不幸を感じる年齢は15歳から40歳まではフラットであるが、50歳程度から年齢が上がるに連れて下がっていく。40代の幸福度が、下がる理由は会社での上下からくるストレス、家でも子供の反抗期等が想定される。ライフステージ別では、未婚の幸福度が低く、且つ、不幸度も高い。第一子誕生日が幸福度が人生の中で最も高く感じられる時である。経済的豊かさと幸福度の関係は保有資産が上がるに従って上昇していく。不幸せ度は2000万円からはほぼ、一定である。年収に関しても同様で年収2000万円に向かって徐々に幸福度は上昇する。不幸度は年収150万円程度から徐々に低くなっていく。労働環境と幸福度の関係は専業主婦主婦、主夫と正社員が高い。派遣社員、無職の幸福度が低い。役職別では社長、部長が、最も幸福度が高く次に専門職、研究者が高い。一般社員の幸福度は最も低い。地域別では幸福度は西日本が高く、東北地方の不幸度が高い。
第3章 お金と幸福度
発展途上国ではお金は幸福度に大きな影響を与える。極端な貧困は人間を不幸にする。しかし、先進国ではお金の幸福度への影響は、限定的になる。所得が高い事で幸福度は上昇するが、所得が上昇すはにつれその影響は、小さくなっていく。132ケ国での個人アンケート結果であるthe Gallup World Pollでも同様な内容が報告されている。幸福度の指標として、感情の幸せ、人生の幸せ、主観的幸福度の3つに指標を分類して分析する必要がある。32ケ国でのアンケート結果では、日本の幸福度は人生の評価、感情の幸せ共に低い。特に人生の評価はほぼ最下位である。世界中の国で共通な内容は、所得の伸びと感情の幸せが伸び続く事はなく途中で飽和する事である。一方、所得と人生の評価はアメリカ、イギリス、日本の3カ国だけは所得と人生の評価が比例し続け、他の国は頭うちとなる。日本人はお金以外の価値ある物に気付いていない可能性があると記載している。また、物質的な願望は、取得すると慣れてしまい幸福度が低下する傾向がある。ハーバード大学が行った研究では1938年から76年間に渡ってハーバード大学卒268名とボストン貧民街456人を追跡調査して、結論として人間の幸福は良い人間関係の結果であるとした。お金や何かの購入に時間をかけるのではなく、人間関係に関心を寄せる事により使うべきであると結論付けた。お金の使い方については、長く使い続け愛着が湧くような場合は幸福度が長く続く事も事実である。フィンランドでは代々受け続けられる様な家や家具の使い方が日本と異なっているとしている。これの1つの原因として、小さい頃からの教育を挙げている。日本では、教師は子供に教えるという立場をとるが、フィンランドでは調べ方を教え、自分の意見を持つ事を重視した教育を実施している事である。これが自己肯定感、自己効力感に繋がっていると筆者は考えている。この裏返しが、「相手を攻める」に繋がっている。自己肯定感が低いが故に、自分に自信がなく、相手を攻めてしまうという現象を想定している。また、北欧の人が自分の好みを持ち、他人からの影響が小さい理由として、自分の自由になる時間の長さを挙げている。日本では長時間労働が当たり前であるが、北欧では16時に仕事が終了し後の時間は自分や家族の為に使う事が出来る。その精神的余裕が他人の影響を最小限にして自分のやりたい事を自分が選んで行っている事の影響があるとしている。最後にアンケートの内容が記載されている。独身、結婚、育児、子供独立の各ステージと年収をパラメータにした幸福度の調査である。結論は、独身で所得が少ない人は不幸感が幸福度よりも高い事、他の場合は全て幸福度が不幸感よりも優位である。
第4章 人との繋がりと幸福度
ハーバード大学での成人発達研究にて、収入や資産よりも人間関係の良好さが、幸福度に大きく貢献する事がわかってきた。経済的発展に伴う長時間労働が、アメリカ、日本ではこの期間に人間関係が希薄化し人と人との絆を築く時間が少なくなった。マズローの欲求段階では、生理的欲求、安全欲求、愛情欲求、尊敬欲求、自己実現欲求と階段を上がっていく。発展途上国では生理的、安全欲求を実現する段階であり先進国では愛情、尊敬の段階に入っていると考えるべきである。先進国では物質的所有から非物質的な所有に移行しており人との繋がりに時間とお金を投入する事が幸せに繋がると考えられる。日本でのアンケートでは、住居、所得と富、仕事の質、社会との繋がり、環境の質、健康状態、仕事と生活のバランスの7つの柱の中で幸福度への貢献が最も高いのが、健康、次に所有と資産、3番目が社会との繋がり、ワークライフバランス、環境の質であった。イギリスでは人との繋がりによる幸せを金銭換算する事で、お金との比較を容易にする活動をしている。結婚と幸福度は強い関係があり、結婚している人が「非常に幸せ」と答えた人は42%、離婚後は17%、別居中は21%、未婚は26%となり結婚は、幸福度に強い影響を持っている。しかし、「非常に幸せ」が2、3年でなくなる場合もあり、配偶者に関心を持ち続ける事が重要であると示している。人にも物にもケアをし続ける事が、幸福度にらつながるのである。子供と幸福度の調査も実際されており、未就学児童での高い幸福度が、子供が成長するにつれ不幸感の方が高くなっている。北欧では高い幸福度が維持されている1つの理由として、人との繋がりを挙げているが、北欧は長い雪の中での生活で、家の中にいる時間が長く家族と時間を楽しむ事が大きな影響を最も推定される。コロナ禍の中で人との交流が低下したが、これが、幸福度低下の理由と考えられる。日本での地域別の幸福度調査では、東北地方が全般的に幸福度が低い。家族との関係は九州が高い傾向が見られる。
第5章 働き方と幸福度
働く事は生活費を稼ぐだけでなく、生き甲斐、働き甲斐の幸福度においてプラスの側面を持っている。しかし、一方長時間労働、仕事のストレス等マイナスの側面もある。日本、台湾、韓国、イギリスで長時間労働と幸福度の関係が調査されており51から60時間で精神的な健康に影響があると報告されている。特に11超/日の労働は精神的健康度が低い。また、サービス残金がある場合のメンタルヘルスへの負の影響が大きい。日本でのアンケートの結果では、1日10時間の労働までは幸福度が向上するが、11時間以上は急激に低下する。これを独身、既婚(方働き)、既婚(共働き)で区分すると、独身の場合は10時間までは幸福度が向上し、特に8時間を超えてからは全体の平均に比べ倍ほどの幸福度の向上が見られる。これは独身の場合、家庭との両立を気にする必要がない事、残金により手取りが増すことが挙げられる。既婚(方働き)では、10時間まで幸福度が維持されていた。既婚(共働き)では、労働時間が短い程、幸福度が高いという結果であった。特に8時間を超えると急激に幸福度が低下する傾向にある。これを男性、女性で分解すると、女性の幸福度低下が著しい。まだ、日本社会では基本的に男性は外で働き、家庭は女性が担当すると言う意識があり、共働き夫婦では女性の負担が大きいと推定される。北欧と日本を比較すると、北欧では16時に仕事が終わり、子供と遊ぶ時間があったり、自分の趣味である課外活動をしている人が多い。日本では殆どみられないが、北欧では一般的である。これが平均で1時間弱あり時間的余裕が日本に比べあると言える。課外活動は具体的に言うと、スキルを磨く、人間関係を強化する、自分の時間を過ごす、スポーツをする等である。これを親族、家族、友人と行うのである。この幸福度への影響は大きい。フィンランドでは社会全体、会社全体が16時以降を楽しむ雰囲気ができている。充実したセーフティーネットが根本にありあまりお金の心配がない事が理由として考えられる。貯金という概念も余りないとの事である。コロナ禍では、日本ではテレワークが浸透して良い面と悪い面の両方が挙げられている。良い点は通勤からの解放である。悪い点は人との触れ合いの低下である。フィンランドでは元々テレワークに既に慣れていた為、余りコロナ禍の影響を受けていない。日本での30万人アンケートでは無職の男性の年齢別の結果を記載されている。60歳よりも若い人の無職は、リストラ等自分の意思に反しての無職な可能性が高く、幸福度は低い。一方、65歳以上では定年後の状態であり高い幸福度を示している。パート、アルバイトの女性は世帯年収に比例して幸福度が向上している。
第6章 住みよさと幸福度
地域社会での幸福度との関係は、住みやすさ、地域の人間関係、自然環境の満足度の3項目が重要視されている。日本とフィンランドの違いと言う観点では自然と触れ合う事のできる環境整備状況、家族、友人と地域での趣味等を通じた触れ合いがある。日本での30万人アンケートで色々な切り口で考察が行われている。住みよさと年齢では高年齢になるほど、地域の住みやすさは向上している。年収別では200万円以下の所得層が住みやすさに関して不満である人が多い。地域の人間関係では、年齢別では65歳以上の高年齢の人の満足度が高い。収入別では200万円以下の低所得者層の不満が多い。自然環境の満足度では、年齢別では65歳以上の高年齢層の満足度が高く、収入別では不満が多い。概して、年齢の上の人は満足度が高く、低所得者の不満が多い。地位別では、自然環境への満足度では東京、大阪、名古屋等の大都市圏で不満が多い。地域の住みやすさでは、東北地方の満足度が低く西日本で満足度が高い。地位の人間関係では西日本で高く東北で低い。主観的満足度では西日本でなく高く東北で低い。全体的には東北での満足度が低く、西日本では高い。
第7章 幸福度の地域別比較
都道府県別の幸福度調査では、東北が低く、西日本が高い。高年齢者は概して満足度が高い。各都道府県では、田舎の方が幸福度が高い。また、年齢が上がる程、収入が上がる程、満足度はあがる。
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