米国はどこで道を誤ったか     2008年 

序章:株式会社アメリカでは役員の法外な報酬と利益操作が大きな問題であると述べ、それを監査できていない取締役、議会、規制当局、格付会社、弁護士、公認会計者にあると述べ取締役会の機能不全にも指摘している。次に投資会社アメリカでは、投資家の利益を第1に考えるべきである投資運用会社が長期視点を持たず短期的な視点での投機に集中しており結果として、株主の利益を損なっている状況である事を示している。次のミューチュアルファンドアメリカでは、投資家から資金を集め投資家の為に運用する筈のミューチュアルファンドが、ファンドを運用する責任者であるファンドマネージャが自分の利益を優先した状況である事を問題としている。結論としては、力強く公平な資産形成システムの構築が必要であり本書で具体的に提言している。

本書は以下の構成である。

  • 序章
  • 第1部 株式会社アメリカ
  • 第2部 投資会社アメリカ
  • 第3部 ミューチュアルファンドアメリカ
  • 第4部 結論

第1部 株式会社アメリカ

  • 第1章 株式会社アメリカはどこでおかしくなったのか?
  • 第2章 株式会社アメリカはなぜおかしくなったのか?
  • 第3章 株式会社アメリカをオーナーの手に取り戻す

第1章 株式会社アメリカはどこでおかしくなったのか?
 資本主義社会では仕事で利益を求めるならば信頼させる人格が必要であり、これが徳と得の一致である。すべてを性善説でとらえる事は非現実的であるが少なくとも約束や義務は一旦生ずれば必ず守られるという確信がなくてはならないというのが資本主義の大前提であった。この資本主義の状態にてある変化が生じた。これを「資本主義の病的変化」と表現しているが、企業は創業者等のオーナーが支配するのではなく、多くの一般の投資家のお金を集めたファンド運用会社が企業の株を有し、本来長期的目線で考える所を短期目線のみでの株価の短期的な売買で得た利益をファンド会社自身の収益としてファンド運用会社の経営者が法外な報酬を得る恰好となっている状態を意味する。また、本来このような行き過ぎた報酬等には取締役会、公認会計監査等のチェックが入る筈であるが、運用会社の経営者と取締役、公認会計士との関係が利益相反となっており、鋭いチェックは入らない構造になっている。この様な事態での経済的な混乱の事例がITバブル、リーマンショックである。1990年代から急速に発展したコンピュータによる株の短期売買がこれらのバブルとその崩壊に大きな影響を与えた。この2つの経済的なショックで利益を得たのは企業の経営陣と金融仲介機関であるミューチュアルファンド運用会社である。利益を失ったのは一般の投資家である。一般投資家が自らリスクをとって資産をミューチュアルファンド会社に託す。ミューチュアルファンド会社は広範囲な企業に投資を行う。企業の経営者は投資された資金を基に短期的な目線での利益追求を実施する。ミューチュアルファンド会社は企業の成績とは無関係に手数料を無リスクで取得する。企業経営者は短期的な株価の上昇を自己の成果として法外な報酬を得るのである。この端的目線の結果、投機的な運営となり好循環の時は見かけ株価は上昇するが、さほど長くない時期にバブルが崩壊し一般投資家の資産はミューチュアルファンド会社、企業経営者に搾取された手数料等のコストと共に株価の著しい低下と共に資産が減となる。これが繰り返し行われてきた経済混乱の一連である。企業経営者の問題として法外な報酬以外にもストックオプションが挙げられる。ストックオプションは経費上は「ただ」の扱いとなっており、この部分がCEOのストックオプションを巨額にしている理由である。また、法外な報酬・多額なストックオプション以外にも、社用車・車両機の個人利用、退職金等、会計上見る事のできない費用が成果もでていないCEOにも支払われているのが実態である。実例として、タイコ・ワールドコム・GE等のCEOの不適切な対応が記載されている。次は利益操作である。4半期毎に収益目標を公表する事が慣習化している。この収益目標は高い確率で達成されている。この高すぎる達成確率が問題であり不正が内在しているのである。このからくりの一つとして企業の年金運用利率の修正である。従業員の為の退職金の運用益を収益の補填として計上して、この高すぎる目標達成を実現している。この様な短期目線での対応が実際に行われている。これが株式会社アメリアである。

第2章 株式会社アメリカはなぜおかしくなったのか?
 企業の経営は誰が実施していれるか?それは取締役会で承認された経営者である。その代表がCEOである。この人達は長期的な運営者ではなく短期的な契約となっている場合が殆どである。これらCEOは何をするであろうか?使って良いのは物言わぬ多数の一般投資家、又は、ファンド運用会社からの投資である。つまり他人の金である。この状態では、CEOの就任の目的がビジネス、つまり金儲けなら、投資された資金の略奪がCEOはじめとする利益を得る事のできる関係者で享受できてしまう。取締役の選任、公認会計士の選択、等々は全てCEOを始めとする経営者達の思うようにコントロールできてしまう。4半期ごとの高い目標を立案して数値上その目標を達成する様な数値処理をある期間実施し自分の任期を終え高額な報酬、ストックオプションを得る事が可能になる。これにより長期目線での企業価値の低下が行われてもその結果が外に出る事はない。隠蔽が可能になる。また、議会・議員という立場の公的な人たちもこれらの巨大な金融企業が提示する政治献金、ロビー運動により一連托生となりCEO達の暴走を食い止める事は出来ていない。取締役会も同様で、取締の選任段階が重要でCEOを厳しくチェックするような人選をしなければチェック機能は働かない。これらの事象によりCEOによる搾取は可能になり極めて高額な報酬がCEOに与えられ企業価値に棄損が生じているのである。短期的な定量化可能なものだけが企業にとって重要ではない。測定はできないが重要な内容として、企業文化・熱意・信念・情熱といった性格は測定は難しいが企業が成長するためには必要な事項である事を忘れてはいけない。企業価値を向上・維持する為には人材は不可欠でである事も大変重要である。以上を踏まえここで最も言いたい事は「権力者を見張る」である。
 

第3章 株式会社アメリカをオーナーの手に取り戻す
 タイコやGE等のCEOの厚かましい振舞に対して世間の注目が集ま士大きな反応が生じた。2002年エンロンが全米の注目を集めた後、様々な委員会が設立された、その一つがコンファレンスボード員会でボーグル氏も委員を務められ75の提案がなされた。主な3つの提案と7つの方針を記載する。
主な3つの提案
  ①役員報酬について  ※長期目線での成果とストックオプションの計上
  ②企業統治について  ※経営と所有の分離
  ③会計基準について  ※監査の質向上 監査方針によるコンサル廃止
7つの方針
  ①企業市民の概念の推進   ※株式保有者が委任状を投票し経営陣に意見を伝達する事
  ②経営と所有の分離     ※CEOに権力が集中する事を防止~権力の分離を行う事
  ③ストックオプション報酬見直し ※ストックオプションの計上と見直し(長期保有等)
  ④報酬基準見直し      ※他社との比較ではなく自社の成績依存型にする
  ⑤長期視点に回帰する    ※企業価値の向上は長期目線で実施する事
  ⑥会計の透明性を高める   ※税申告と連動させ利益の透明性を確保する事
  ⑦取締役会の意識改革    ※各取締役が完全に独立して考える文化の醸成
・民主制企業と独裁制企業
  企業には2種類の文化があり民主制と独裁制であり、2つのトータルリターンを比較すると民生性の方が高成績である。
・株主は経営に不満があるならCEOに対して支持保留票を投じるべきである。例えば、ディズニーの株主の43%がマイケル・アイズナーCEOの再任を不支持表明した。彼の10億ドルの報酬と1年しか務めなかった全社長の高額な退職金への不満であり、その後、CEOは辞任した。一方オーナ資本主義の創業者一族が強力に支配するマイクロソフトは長期目線での企業運営がなされており被害は最小限に留まっている。ボーグル氏の主張は「万国の株主よ、団結せよ!

第2部 投資会社アメリカ

  • 第4章 投資会社アメリカはどこでおかしくなったのか?
  • 第5章 投資会社アメリカはなぜおかしくなったのか?
  • 第6章 どうすれば投資会社アメリカを修理できるのか?

第4章 投資会社アメリカはどこでおかしくなったのか?
昔は個人投資家が企業の株を所有していた。今は機関投資家が圧倒的多数の株を保有している。年金基金マネージャとミューチュアルファンドの2つのグループに分ける事ができる。
フィデリティ・バークレイ・バンガード等の大手マネーマネージャがその代表格で株の36%はミューチュアルファンド、64%は退職年金プランが保有している。これらの金融システム(運用会社、証券ブローカ、投資銀行、証券取引所等)で多くの不祥事が生じている。機関投資家は企業の統治に関与しようとしない。企業の株式を保有し全体で支配権を握りながら保有先の退職年金資産を運用すると利益相反に直面する為だ。機関投資家は企業から年金プランや401kの管理を巨額の手数料を貰っているからだ。顧客の機嫌を損ねる事はしないものだ。また、金融コングロマリットが運用会社を買収している事も特徴の1つである。ゴールドマンサックス・シティグループ・メリルリンチ等の巨大コングロマリットがその傘下に多くのミューチュアルファンドを有している。これらの金融コングロマリットも多くの不祥事に関与している。企業統治はつらい役回りでありあまり旨味のない仕事であり機関投資家はだまっている作戦をとっている。
 まとめるとオーナーである投資家が受け身になった。株を個人が自分の資産をリスクをもって所有するのではなく機関投資家が多くの株を所有する事で、本来のファンドへ入金した投資家の為ではなくファンドマネージャ自身の利益を優先するようになった。これが投資会社アメリカがおかしくなった理由だ。
 1949年ベンジャミン・グレアムは「賢明なる投資家」の中で、経営者達はたいてい正直で有能で合理的であり、この前提の上で、株主は王様・株主は知性も明敏さもない存在・優れた経営者が多いので株主は経営者から恩恵を受ける。もし、経営者が不正直なら株主は物申すだろうと楽観的にとらえていたが、実際現代では劣悪な経営者が多いが株主は黙ったままである。この状態であるのでボーグル氏は「爆竹を鳴らす」と主張している。

第5章 投資会社アメリカはなぜおかしくなったのか?
 ミューチュアルファンド業界は「株を保有する」から「株を借りる」に変わってきており、この影響は企業統治への関与において変化を示している。つまり、企業投資に対して株主が何もしない、関わろうとしないのである。企業経営者であるCEOと幹部達は何も言わない株主達を横目にひたすら短期売買をくりかえり短期的成果を求めている。4半期毎に決算を操作して短期的に株価を吊り上げる。これにより長期的な視点での企業価値向上よりも短期的・投機的な視点での企業活動に力点がシフトしている。2000年付近のITバブルの際も異常なまでの株の上昇を見ながらも多数の投資家、及び、関係者が熱狂的に株の短期的上昇に注力した。その結果、熱狂的な状態は続かず株は下落指向に陥りピークから78%のダウンとなった。この様な状態を改善するため、SECが財務状況報告の現状を検討する目的で「独立性基準委員会」という委員会を立ち上げ、監査人が顧客から完全に独立しているかに焦点を当てた。大手金融機関の証券アナリストを選んでボーグル氏自身が面談したが、財務報告書はただしく、かつ、独立性も確認できてしまった。また公認会計会社による企業のコンサルタント業務も禁止ではなく情報の開示が望ましいという結論になった。この活動の後、ITバブルは崩壊し、振返ってみると、関係者が共謀してしたと考える事ができる。短期的な熱狂の感情が長期目線に勝っていた事になる。企業会計にとって企業年金は小さな存在ではない。年金の予定利率を何%にするかが会計上の影響が大きくこれにより短期決算は上下してしまう。短期目線での感情に捕らわれた運用が投資会社アメリカを異常な状態に導いてしまった。

第6章 どうすれば投資会社アメリカを修理できるのか?
 投資会社アメリカの修復方法の原点は、この本で繰り返し述べられている「短期投資から長期投資へ」のパラダイムシフトである。これを実現する事は現状のアメリカの金融業界を鑑みると簡単ではない。この事実を踏まえいくつからの視点を述べ、具体的な策を説いている。1つ目は回転売買コストが高い事の理解である。その例として、ヘッジファンドを挙げている。ヘッジファンドの特徴を述べると共になぜ最近縮小しているかを説明してあり、その原因の1つに回転売買コストが高い故の収益の低さである。2つのは配当である。長期投資と配当の関係は通常ネガティブにとらえられるのが通常である。配当により税金がかかりコスト高になるという為、配当を受けず再投資にするというのが通常の考えである。しかしここでは短期投資と長期投資という視点で配当を考えている。配当に期待するという事は短期投資ではありえない。配当を期待する事イコール長期投資前提である、この事実を前抜きにとらえる事で「短期投資から長期投資へ」の促進剤として位置付けている。3つ目は課税である。短期投資で得られたキャピタルゲインへ大幅な課税をすると言うアイデアである。4つ目は、株主総会での委任状の仕組みの改善である。株を所有する事の権利とは何か?を突き詰めると以下の4項目を株主として株主総会にて委任状という仕組みを用いて主張する事ができる。
  ・取締役会会長とCEOの兼任防止
  ・監査法人のコンサル禁止
  ・取締役の他の委員会兼任禁
  ・開かれた統治への同意
  ・過度な買収防止策の抑制
  ・ストックオプションの監視 
また、大口金融機関の役割は上記提案を承認する事も必要である。また、これと並行して、別に選任された取締役が年次レポートを作成し投資家への情報提供を行う事で投資家の判断能力の向上をと取締役の投資家ファーストという精神の現れとする事が重要としている。以上の諸策になり企業民主主義が共和制を生み、CEOによる独裁体制を防止するコーポレートガバナンスを効かせるのである。「株主不在の資本主義は衰退する」という言葉を深く受け止める必要がある。

第3部 ミューチュアルファンドアメリカ

  • 第7章 ミューチュアルファンドアメリカはどこで間違ったのか?
  • 第8章 ミューチュアルファンドアメリカはなぜおかしくなったのか?
  • 第9章 ミューチュアルファンドアメリカをいかに修理できるのか?

第7章 ミューチュアルファンドアメリカはどこで間違ったのか?
 本来投資家の利益を最優先する筈のミューチュアルファンドも投資家を裏切る行為を行ってきた。1つは、ブローカへのリベート。ファンドマネージャは売れるファンドを作り、それをブローカにお願いして売ってもらう。その際にリベートを支払う。これがコストになる。また次に優先顧客に対して、証券取引き時間外での企業の情報を通じての価格の上下を用いた利益誘導、海外との時間差を用いた同様の手口等での同様な利益誘導によるコスト発生等が挙げられる。見かけの売買回転率を挙げずに手数料を多く搾取する同一ファンド内での頻繁な取引が運用コストを生じさせてきた。金融業界での方程式は「金融市場のグロスリターン-仲介業者への総コスト=投資家が手にするネットリターン」である。ミューチュアルファンドのマネージャーは投資家の利益を最大化するのではなく、仲介業者への総コストを最大化させる事を主眼に置いた活動を実施してきてしまった。これにより多くの投資家は本来得られる利益の多くをミューチュアルファンドから搾取されるという状態に陥った。これがミューチュアルファンドアメリカの間違ってしまった理由である。

第8章 ミューチュアルファンドアメリカはなぜおかしくなったのか?
  ミューチュアルファンドには2つの種類が存在する。1つはアルファ型、もう1つはオメガ型である。世界発のミューチュアルファンドはMITでありアルファ型であった。これはミューチュアルという言葉の通り、投資家からの資産を管理者が受託責任を強く持ち、投資家の利益を最大化する事を目的として発足したのである。1920年代にMITは作られ40年程度はこの状態が継続されていた。しかし、1970年代、80年代、90年代に時が進むにつれ、このミューチュアルファンドはビッグビジネス化し、その統治のシステムが変貌していった。大手の金融コングロマリットがファンド運用会社を買収し、運用会社と独立した組織であるファンドにも役員を派遣し、かつ、CEOを兼任するようになった。ミューチュアルファンドは利益至上主義に大きく変貌していった。その中で、ファンドマネージャは自分の利益を主に考えるようになりアドバイザー手数料をいかに大きくするかに注力するようになった。独裁者にも匹敵する存在になった。ファンドを大きく膨張させ手数料を増加させる事、多くのファンドで多くの品揃え 流行を追ったトレンド商品、ポートフォリオ入れ替えの際に発生する手数料、販売支援・調査等を外部機関を活用し自分はリスクZEROで稼ぐ、投資家が全てのリスクをとるというスタイルとなり、ミューチュアルファンドのマネージャーと投資家の間には利益相反が存在する事になった。通常の株式会社なら株主は大きな影響を持つが、ミューチュアルファンドの投資家はファンドマネージャに対して発言力がなく無力であり、この結果ファンドマネージャは独裁者になりうるのである。これらの流れの中で利益至上主がさらに拡大し、当初からの理念である誠実さ、倫理観、顧客に対する忠誠という大切なマインドが失われた。これらオメガ型の運用会社は大手金融コングロマリットの傘下にある為、手数料が高く投資家の得る利益は低い。また、そこでの商品も投機的、新しさを売りにいている。保有期間も11ケ月と短く投資ではなく投機が主体となっている。ITバブル等の熱狂での成功の時は良いが、バブルが崩壊してからは投資家の失った利益は計り知れない。この様なオメガ型ファンドでは、新しく多くのファンドが作られ、同時に多くのファンドが消滅していく。実際には、輝きを失ったファンドは、運用会社の同一ファンドの中で他のファンドに吸収されていく。結論として、なぜミューチュアルファンドはおかしくなったのかと言えば、ミューチュアルファンドはが大型のビジネスとなり、大手の金融コングロマリットが参入し、当初の投資家の利益を優先する性善説のモデルから利益最優先のモデルに変化し、運用会社自分を金融コングロマリットがが所有し、運用会社へ金融コングロマリットがから役員が派遣され、かつ、独立した組織であるファンドにも役員が派遣されるという形態の中でさらに利益至上主義が徹底される状態にあり、ファンドマネージャの独裁政権を誰も止められない状態に至った為である、と言える。株式会社とミューチュアルファンドは基本構成が異なり、株式会社の方が整備が進んでおりミューチュアルファンドは理念は高貴であるが悪用された場合の防衛策がないことが問題であるといえる。

第9章 ミューチュアルファンドアメリカをいかに修理できるのか?
 ミューチュアルファンドは性善説から発足した背景もあり、悪用されると「暴利巻き上げシステム」と変貌してしまう。この弱点を補う為の諸策が以下の4点である。
1.ファンド取締役会の再構築 
2.ファンド取締役に運用会社からは1名とする 
3.ファンドのCEOは独立していて、ファンド専用スタッフがファンドCEOに報告する事 
4.ファンドの取締役の受託者責任を連邦法で規定する 
SECは1~3を承認し2006年から施行した。しかし、4は州政府の管轄であり調整中である。 この様な改善活動は現在進行形であるが、確実に変化の兆しが生じている。
1.運用会社の報酬の情報開示    
  ※カリフォルニア州公務員退職基金は運用マネージャーに支払うコストを開示している事から、同じ運用マネージャーが他のミューチュアルファンドから多額の手数料を貰っていると判明    
2.ファンドマネージャ役員取締役等の高額報酬者の情報開示 
  ※ミューチュアルファンドの幹部が別の運用会社の社員で、その会社が非公開会社の場合、あるいは金融コングロマリットの子会社の場合は幹部の報酬の情報は開示されない  
3.目論見書のリターンの妥当性検証
  ※リターンの履歴を大きくする事は、ファンドがまだ小さいときに高いリターンを獲得して大きくなってもその数値を掲示する事等の課題あり 
4.企業型確定拠出年金(401K)にて運用会社に委託している手数料等の情報開示 
5.ミューチュアルファンド業界の金の流れの調査 ※ポートフォリオ売買回転率も開示が必要  ミューチュアルファンドは、その発足の経緯から公共の利益と深い関係があり以下7つの項目に着目する必要がある。
1.長期投資である事
2.一般の投資家の退職後の備えである資産の積立である事
3.資本市場の効率さへの貢献する事
4.企業統治を建設的に実施する事
5.リスクとリターンを公正に表示する事
6.ファンドの取締役は独立した立場で投資家の為に行動する事
7.投資家の為に賢明である事 ※時間外取引、大口顧客への優先的手数料ダウン等の不正防止 1~7を注意しながらもミューチュアルファンドを作るのであるが、ファンドの立ち上げ時はファンドが軌道になるまで保護・見守りが必須である。ある程度大きくなったらファンドは自立可能となる。
 これらのファンドに関わるルールを作る事は必要であるが、平行して投資家を教育、目覚めさせる事も重要である。自分が出資したファンドでの年間経費、取引コスト、販売手数料の資産への影響等の情報をうまく処理する能力が求められる。投資家が有すべき7つの知恵を示している。 
1.リターンの源泉は何か?    ※企業の本質的な成長である
2.自分の投資は分散しているか?
3.市場のリスクは何か?   ※株の上下はそれだけで十分大きい
4.市場に勝つ確率を知る事  ※市場平均に勝つ事は難しい
5.何を知らないかを知る   ※株の動きは誰にも読めない
6.株と債券を比率で保有する事
7.投資しない事は確実な失敗であり投資は継続する事 
1~7の結論としてインデックスファンドが最も最良な選択であるとしている。 
本当の意味でのミューチュアルファンドの淘汰は、投資家が知識と知恵を得て、暴利巻き上げシステムなミューチュアルファンドを購入しない事である。 

第4部 結論

 基本的な考えは、金融機関に関わらず仕事は人間と人間の信頼関係をベースに行う事が大切であると述べている。この際、倫理観・道徳観・責任感という性善説的な言葉で特に企業・金融機関の経営者達に、この人間としてのベースが大切であると述べている。ビジネス倫理では、何よりも儲けを優先するのえではなく威信よりも得、形式よりも実質、金銭よりも功績が褒め称えられる社会にする事の大切さを述べている。それを裏付ける為に著名な9人を挙げている。 

ヘンリー・カウマン:金融界の大物
 金融機関や金融市場も人間が結ぶ関係の大半は信頼に基づくものであり、特に企業の上級経営陣は倫理感・法律順守・責任感を遵守する必要がある。
フェリックス・ロハティン:ウォール街の賢人
公正・倫理の重要性を説く。むき出しの貪欲に悪用が多く発生。 
アラン・グリーンスパン:FRB議長
 ルールをいかに整備しても相手の言葉を頼りにするのが取引の大前提である。19世紀規制があまり整備されていない時代、評判と信頼が貴重な仕事での大切な資産であった。当時、倫理基準を遵守する事は大前提で、悪名高い投機家は少数だった。しかし、1990年代の熱狂の時代は人と人の信頼関係の価値を下落させた。
アダム・スミス:国富論の著者
 「国富論」の見えざる手が働く前に、「道徳感情論」を著わし理性・信条・良心 正直・高潔 高尚 威厳が重要である事を示している。  
ジョセフ・シュンペーター 
ジョン・メイナード・ケインズ 
 他人の利益と自分の品位を優先して自分の利益を後回しにする事 起業家精神と血気を重視し、 損益のやり取りは後回しにする事が重要である。
 アレクサンダー・ハミルトン:米国の2大政党の考え方に加え第3のグループのリーダ
 政府の力を利用する事で公正な競争が促され市場のダイナミクスが増すという主義を有し、アメリカは今まやかしの夢から覚めるべき時と述べている。
ウォーレン・バフェット:企業経営 
 経営者に説明責任と受託者精神が衰え行動規範が落ちた。経営者は会計のごまかしや、破廉恥なほどの高額な報酬で経営を悪くしている。取締役は厳しくこれをチェックする必要あるが、「取締役会の空気」もあり会議への出席者はCEOを入れ替えては?と言えない空気を感じている。もし言えば、そこから退席する事になってしまう。報酬委員会も同様で、会計監査会社からのコンサルタントの提案に「はいはい」のみの回答をするお座敷犬となっている。また、CEOの法外な報酬を止められていないミューチュアルファンドの取締役も同様である。ファンドマネージャーに手数料を低くするように求めるのが本来の取締役の使命であるが、実質的な取締役の任命権がファンドマネージャーサイドにありこちらもお座敷犬となっている。これが投資家の利益に大幅に反している。ファンドの取締役が運用会社を変えて直接はなしままとめる事と提案しているよい適切なファンドも多くあり、決してできない話ではないのである。
ジョゼフ・E・スティグリッツ  
 エンロン等の企業幹部はストックオプションを増大させようと株価を膨張させインサイダー情報でタイミングよく売却する事で私腹を肥やした。結果として、情報に通じていない一般の従業員に対して雇用・退職金の2つを同時に消失させた。企業経営者には、信任義務があり自分の為ではなく従業員・株主・地域社会への貢献が優先であるがこれを怠った。また、会計事務所は会計の性格さよりもコンサルタント料で稼ぐ事を優先させ、証券アナリストも手数料を稼ぐ事を優先し投資家の利益を自分の利益の後回しにした。 

 以上のコメント共に以下の2点を提案している
提案① 連邦委員会の設置
 起業に成功して企業を長く運営するには利益を生まなくてはならない。最善の方法は自社の株主の利益だけでなく顧客・従業員・地域社会の利益、ひいては社会全体の利益を考える事であり、あらゆる手段を使って良き市民になる事である。現在の株主は1/3は投資家による直接保有、2/3は代理人による保有であるが、結果的に企業が議決権を自分達の論理で行使する。この背景の中で企業の経営者は自己の利益を最大化するという悪循環を演じている。同時に、ミューチュアルファンドが短期的な投機家となり企業経営に全く関与せず、企業経営へのチェック機能を果たさず企業経営者が自己の懐を増やす結果となった。また、大手金融コングロマリットがファンド運用会社を買収し、一体誰がどの企業を所有しているのかが複雑化し、見えにくくなっており、長期視点に戻る為にも、ゲームチェンジが必要であり連邦委員会を設定するよう提案した。 

提案②退職年金運用の課題と対策
 低所得層は年金の積み立てができない、また、所得が多い相は年金積立が可能貧富の格差が拡大する理由となっている また、年金を運用している側にも問題あり、利率を高くしすぎていて大きなリスクをとっている。年金運用の課題解決は、収入を上げる事に対しては、対象者の拡大+利率拡大である。また、支出抑制としては、退職年齢引き上げ+退職年齢の平均余命連動型に変更する事である。個人での年金準備として低コストインデックスファンドを政府が推奨している。一般の人が対象であるので仕組みを簡単化する事が重要であり、以下の4項目を列挙している。
1.ファンドは1つ 例:SP500 
2.オプションはなし 
3.退会・再加入不可 
4.債券比率を退職までの日程で連動させる 
企業経営状況把握の改善点として、年金貯蓄ファンドの管理人に知恵経験を持つ独立した人を任命し企業の暴走を食い止める働きを期待する。 

 

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