米国金融の仕組み 2012年 発刊
本書は以下の9章から構成される。
- 第1章 文化の衝突
- 第2章 「ダブルエージェンシー社会」の功名な共謀
- 第3章 ファンドの沈黙
- 第4章 ミューチュアルなファンド文化
- 第5章 ファンドマネージャは真の受託者か?
- 第6章 インデックスファンド
- 第7章 年金システムの課題
- 第8章 ウェリントンファンドの盛衰と再生
- 第9章 投資家のためのシンプルなルールと投資家への警告
第1章 投資家のためのシンプルなルールと投資家への警告
投資と投機という現象を2つの文化の衝突という言葉で表現しているが、言いたい事は同じで金融市場は、高頻度な短期的投機によって、ウォール街のみが利益を受け取るというカジノと同じ状況になっている。これを正常化する必要があると説いている。運用のプロである機関投資家が自分達の利益を上げる事を目指している事が大きな障害となっている。
第2章 「ダブルエージェンシー社会」の功名な共謀
企業のプロとして雇われた経営者、多くの資産を有するファンドマネージャの2つがエージェンシーとして自己の私腹を肥やす事に最大限の努力をしている事を指摘している。短期売買等で株価を上昇させても、決して企業価値を上げる事のないが、経営者・ファンドマネージャとしての成果として認められ法外な報酬が与えられ、最終的に投資家への受託責任である長期的企業価値向上による株価上昇の阻害になっている事を指摘している。これらの問題を監視する機能として、議会・SEC・FRB・公認会計士等々が存在するが、機能は十分ではなく逆効果になっている点も指摘されている。
第3章 ファンドの沈黙
ミューチュアルファンドは企業統治に積極的に意見を述べ、経営陣が自己の利益を求めるのではなく、株主の利益を追求すべきであると仕向ける事は重要である。しかし、実施されていない。その理由は一時的に所有しているだけで自分の所有であるとの認識に乏しい。受託精神よりも営業精神が強く企業マネージメントに関心が低い株を保有する企業マネージメント活動に費用が掛かる自分の会社を棚に上げて他企業の批判をすることになる高すぎるCEO報酬、法外な政治献金、この二つに対して株主が自分達の利益拡大を求め声を出すべきである。CEOの報酬は長期的目線での株の価値向上に対して評価されるべきである。株主の同意なく、多額の政治献金がなされている事は問題である。しかし、大手ファンド会社は会社側の議決内容に対して異議を申し立てていない。ファンドマネージャ自身も高額な報酬を受けているからである。これらの問題の根は深い。
第4章 ミューチュアルなファンド文化
投資家である他人の資産を委託して貰って運用する受託責任が薄れ、投機目的の営業精神にミューチュアルファンド業界の体質が変化した。この投機により多くのファンドが発生しては消滅した。見た目の利率の高さにつられて飛びつく投資家が多く、また、そのコストも高い。結果、さらにファンドの運用は厳しくなり消滅するファンドがさらに発生する。ファンドマネージャは資金集めが至上命題となり短期投機を繰り返し短期的利益に集中し、高いコストは投資家の不利益となる。また、ファンド運用会社の株式公開による巨大金融コングロマリットの存在も受託責任の真逆となっている。50のファンドGrの内、41Grは株式を公開していて、その内、33Grはコングロマリット傘下である。しかし、大手3社(バンガード、フィデリティ、アメリカンファンズ)は非公開・共同契約である。ファンドの株を有する外部オーナーへの上納金がさらに投資家のディメリットになっている。かって、勢いのあったパトナムは、株式公開を果たした後、保険ブローカの傘下に入り業績は悪化していった。ファンドは投資家の為のものでなくてはならないが、多くの組織はファンドを運用会社がファンドを支配している構成である。これをボーグル氏は、ファンドが運用会社を保有する事で、ファンドのミューチュアル化に成功してた。1974年以降、ウェリントン・カンパニーのCEOを解雇、バンガード社設立、等々を経て現在に至った。真にミューチュアル・ファンドを運営する事は難しく倫理・道徳・価値観等の性善説を有する事が大前提である事が維持する事の難しさを物語っている。
第5章 ファンドマネージャは真の受託者か?
バンガード社では、受託責任指数を作りファンド運用会社を評価している。これにより運用会社を評価し自分自身のベンチマークを実施している。
- 指数1:運用手数料と年間運用コスト
- 指数2:ポートフォリオの売買観点率
- 指数3:投資先の分散
- 指数4:マーケティング志向
- 指数5:広告 ※宣伝費用を使い過ぎていないか?
- 指数6:陳列スペース ※宣伝費用を使い過ぎていないか?
- 指数7:販売手数料
- 指数8:出資者の安定性
- 指数9:ファンド規模の制限 ※大きすぎるとファンド運用は非効率
- 指数10:ポートフォリオ・マネージャの経験と在籍期間
- 指数11:内部保留 ※自分で自身のファンドを購入しているか?
- 指数12:運用会社の組織 ※共同経営がベスト
- 指数13:取締役の構成
- 指数14:取締役会長の議長
- 指数15:規制の問題 ※違反していない事
第6章 インデックスファンド
1976年世界初のミューチュアル・インデックス・ファンドは誕生した。顧問料なし、低い運用コスト、売買手数料なし、最低限のポートフォリオ売買コスト、良好な税効率等のメリットを持つファンドであり、その誕生はポール・サミュエルソン博士が重要な役割をもっている。アイデアとしては他社にも同様なものは存在したが、実行力という点でバンガード社がミューチュアル・インデックス・ファンドを事実上、世界で初めて成功させてたと言ってよい。はじめは受け入れて貰えなかったが、1976年の誕生から現在に至るまで増え続けている。その後、債券のミューチュアル・インデックス・ファンドも販売が開始された。ETFが開発されたが、基本投資信託の方が回転率という観点で優れていると言える。
第7章 年金システムの課題
現在のUSの年金には大きな課題があるが、年金運用者と加入者本人による投機的な運用と国民全体の倹約マインドの低さ、貯蓄不足である。こも大全体の基で、7つの大罪を述べている。
- 大罪1.不十分な積立額 ※加入者本人の積立額が低い
- 大罪2.株式市場の崩壊 ※リーマンショックの影響を受け当時、株式市場は低迷
- 大罪3.積立不足の年金 ※現状の年金運用の利率は低い
- 大罪4.投機的な投資 ※年金運用は投機的な運用をしている
- 大罪5.資産を奪うコスト ※リスクの高い対象に投資している
- 大罪6.金融システムにおける投機 ※現在の金融システムは投機的ムードが蔓延
- 大罪7.利益相反 ※加入者の利益と運用組織・期間投資家の利益が相反
USには多くの年金プランがあるが、401K、確定拠出DC年金が主流になっている。しかし、このDC年金に欠陥があると述べている。第1は借金してのDC拠出への入金、転職等で生じる清算(途中解約)での損失、企業が運営者であるので不況時に年金の見直し・休止・放棄である。また、ポートフォリオが不適切である。自社株をDC拠出に入金できる事もリスクを増大させている。企業が不況に陥った際、倒産等すると仕事と資産の両方を同時に失う可能性がある。また、年金の運用者がアクティブファンドに多く投資している事も大きな課題である。この高い運用コストも大きな問題である。DC拠出年金は運用は加入者本人の責任となっているが、投資教育の不足も相まって問題を深くしている。理想的な年金プランシステムは、低コスト・分散・長期となるインデックス投資を、非営利な新組織「連邦年金理事会」が監督し加入者がかってな自由な行動をしないように指導する事である。投機的な運用が加入者の定年後の資産を大きく減らす事になってしまっている。
第8章 ウェリントンファンドの盛衰と再生
ウェリントンファンドとは、ボーグル氏が尊敬するウォルターLモルガンが1928年に創設したアクティブ運用型バランスファンドである。モルガン氏は、投資アドバイスと税務コンサルタントを主力業務としていたが、ある時、各個人が個別で株を買うよりも、投資する対象が同一ならファンドを作り、複数の個人がこのファンドに投資し、ファンドを大きくして専門家がファンドを運用した方が効率的に運用できると考えた。大恐慌の直前の1928年にこの考えを実行した。当時、同様の考えを持ったファンドは7つあったが、すべて消滅、又は、大幅に規模を縮小していおり現在まで大きな規模を維持して存在している当初の7つのファンドの中で生き残ったファンドはウェリントンのみである。その理由をボーグル氏は説明している。賢明な長期投資に拘り愚かな短期投資を避ける事、基本方針を決して無視しない事、一貫した戦略を維持する事、慎重にリスクを計算しコントロールする事、出資者への利益があきらかでない場合は投資アドバイザーを変えない事、ファンドの名前を高める事、コストを最小限に押させ頻繁な売買を実施しない事である。しかし、経営者の影響を受け一時期攻撃性のある投機志向の時期がありファンドは停滞する。株と債券の比率が重要で株の割合が最大81%にも上昇しファンドは大きく棄損を受けた。その後、ボーグル氏の強いリーダシップによりポートフォリオを保守的に変更し大きく資産を拡大する事になり現在に至っている。
第9章 投資家のためのシンプルなルールと投資家への警告
投資で成功する10のシンプルなルールを示している。
- 平均への回帰 ※勝ち続ける株、地域はない。必ず平均化する。
- 時間は友、衝動は敵
- 正しく買い、長く持つ
- 現実的な期待をする ※投機ではなく投資が勝つ
- 針に拘らず干し草の山を買う ※分散投資を行う事
- ディーラの取り分をできるだけ減らす ※低コスト、低い売買回転率
- リスクは避けられない ※分散されたポートフォリオ
- 最後の戦いに気を付ける ※勝ち続ける株、地域はない。必ず平均化する。
- ハリネズミがキツネに勝つ ※ハリネズミは専守防衛の象徴。保守的な投資。
- 最後まであきらめない ※短期目線ではなく長期目線を持つこと
コメント