■人生のダイヤモンドは足元に埋まっている 2008年発行
この本は初版2007年でありボーグル氏が79歳の時の本である。2000年にバンガード社を引退し8年が経過した頃の著書である。
本書は以下の構成である。
- 序章
- 第1部
- 第2部
- 第3部
- 終章
序章
序章はP.6からP.27まで記載されており本全体をまとめている。生立ち・学生時代・社会人時代・大病を通じて学んだ大切な事は「足るを知る」事であり、人格と価値観の大切さを説いている。金融業界のリーダ達の高額な報酬に対して痛烈な批判を繰り返している内容となっている。金融業界が金銭のみに強い目的を持ち、社会的な貢献を忘れている。この問題を解決したい、これが全体のトーンである。表題のダイヤモンドとは、人生に見つけられる価値のある物という代名詞であり、ある時は、本当のダイヤモンド、ある時は質の良い投資信託のアイデア、ある時は社会奉仕であり、ある時は得た収入の寄付等である。
ボーグさんの生い立ちから記載されているが、スコットランドの移民であり、経済的には恵まれないゾーンの人達の生まれであり倹約の精神を強く持っている。運よく良い高校・大学教育を受け、ウエリントンという優良企業に入社して、その後、紆余曲折を経てバンガード社をつくった。そしてミューチュアル投資信託という一般市民にとって真に嬉しい投資ファンドを作り、普通の人々が安心して年金の運用でき、定年後の暮らしへの安心感を得る事に使命を感じ仕事のモチベーションとしてきた。お金を稼げば幸せになるかと言えばNoで社会の良きリーダーとしての価値観、哲学がないと幸せにはなれないというのが、彼の主張である。この背景の上で、「足るを知る」がキーワードであり、特に金融業界のトップ達が高額な給料を取る事で、資本主義社会の貧富の差が拡がっている事を問題視している。
第1部
- 第1章 「コスト」よりも「価値」を
- 第2章 「投機」より「投資」を
- 第3章 「複雑さ」より「シンプルさ」を
第1一部では、3つの章で「コスト」より「価値」を、「投機」より「投資」を、「複雑さ」より「シンプルさ」を説明しているが、これはインデックス投資の基本である部分の繰り返しであり、運用コストを低くリターンを大きくする事であり、投機よりも投資は、頻繁な売買ではなく長期運用の重要性である。複雑さよりもシンプルさとは、金融商品の内容を複雑にして一般市民にわかりにくくする方策が運用会社によりさなれるが、これはよい方向ではなくよりシンプルにして分かり易くした方が良いという事を意味している。
第2部
- 第4章「計算」よりも「信頼」を
- 第5章「ビジネス」よりも「職業人の行動」を
- 第6章「販売精神」よりも「受託責任」を
- 第7章 「マネージャ」よりも「リーダー」を
第2部では、「計算」よりも「信頼」を、「ビジネス」よりも「職業人の行動」を、「販売精神」よりも「受託責任」を「マネージャ」よりも「リーダー」を説明している。計算よりも信頼を重視するとは、ビジネスを行う事で大切な事は第1に人と人の信頼関係を重視し、その次にメリット・ディメリットの算出を行うという事を意味している。また、ビジネスよりも職業人としての行動をは、利益を上げるのがビジネスであるが、その前に倫理観を基にした職業人としての行動規範を眼中に置いている。販売精神よりも受託責任とは、自分たちの販売成績を上げる事を重視するのではなく、投資してくれた一般投資家の貴重なお金を受託している事の重さの認識である。投資会社を信じて大切なお金を受託してくださった一般投資家の人達への信頼こそが重要であると述べている。また、マネージャよりもリーダーをとは、会社の利益をマネージメントする事とよりも、会社を導くリーダーとしての倫理観の必要性を述べている。
第3部
- 第8章「モノへの執着」よりも「責任ある関与」を
- 第9章「21世紀的価値」よりも「18世紀的価値」を
- 第10章「成功」よりも「人格」を
第3部では「モノへの執着」よりも「責任ある関与」を、「21世紀的価値」よりも「18世紀的価値」を、「成功」よりも「人格」をの3つにスポットライトを集めている。これら3つの考え方全て、会社の利益を上げるという事、会社の株価を上げる事、個人としての収入を上げる事、という現代社会での価値は真に価値あるものではなく18世紀までの倫理観に基づいた人間形成があった上での生き方が大切であり、「足るを知る」という言葉にその想いが込められている。
終章
終章では、序章と共にボーグル氏のこれまでの人生の万感の想いが描かれている。「足るを知る」という言葉で、成功と幸福の関連を述べている。金銭等の物質的な喜びは時と共にすぐに慣れてしまう。深い意味での幸福とは、3つの要素からなり、1つ目は自主性。自分で自分の人生、時間の使い方を決めれるという事である。2つ目は他の人とよい人間関係を構築・維持するという事であり、3つ目は自分の能力を発揮できる事である。これらの3つが重なった時、人間は幸せを感じる事ができる。
ボーグル氏の「足るを知る」とは、金銭的には倹約精神、確定拠出年金、賢い投資方法等により恵まれる環境を築く事ができた。しかしこれは「足るを知る」の一部である。年収の半分を社会貢献の為の寄付をしてきた事、金銭だけでなく労力としても米国憲法センターにてCEOを務め社会奉仕してきた点がボーグル氏の幸せに繋がっている。貧しい家に生まれ運良くよい高校・大学で学ぶ事ができた事への感謝は、恩ある出身校への寄付という形で自分への義務としている事は強い倫理観の表れである。
これらボーグル氏の生き方を通じ読者に「足るを知る」事の熟考を期待している。中庸の精神は誰にも大切な教えであり倹約の精神・社会奉仕貢献はこれを実現する人を真の幸せに導いてくれる。品性・価値観・美徳これらの普遍的な徳目こそが現代社会で求められている、この18世紀的な倫理観・道徳観こそが人間を幸せにしてくれるのである。
金銭的な成功のみを求め富を一部の人が集める事は、社会の貧富の差を拡大させる。特にリーダーとして社会を引っ張る立場の人がこの行動をする事が危険である。しかし、現代社会ではこの考えは広く拡散している。「足るを知る」という中庸の精神こそが、これら社会の矛盾を解決していく1つの考え方である。
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